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  明けましておめでとうございます。いよいよ21世紀の幕開けです。
年頭にあたり、今月はいつものコラムとは少しちがい、どちらかといえばオピニオン、提言 といった感じになっています。いろいろな考え方がある中で、真に動物たちの幸福とは、人 間の幸福とは、ということを私たちは見つめ続けて行かなければならないと考えています。

2001年1月のコラム
ニュータード(Neutered)とインタクト(Intact)

  この二つの言葉は、耳慣れない、難しそうな言葉に聞こえるかもしれません。ニュートラルなら聞いたことがあるでしょう。 車のギアチェンジの時とか、スイスは永世中立国ですとか、そう、中性や中立を意味する言葉ですね。ニュータードとは生殖器を取り除いて中性にした動物たちのことを指す言葉です。それに対して、まったく手付かずの状態、生まれたまんまの状態の動物たちのことをインタクトと呼びます。

  従来から、そして今でも、診察室の中では、動物に赤ちゃんができないようにという意味合いで、「不妊手術」とか「避妊手術」という言葉が使われています。これは主にメスの動物に対する手術のことを指していますが、時としてオスにもこの言葉を使う飼主さんもおられます。人間が避妊する時には、男性が避妊具(コンドーム)をつけることが多いわけですから、これはいたって自然な感覚かもしれないですね。人間の避妊法については、わが国ではコンドームが最も一般的ですが、永久避妊という話になると、男性では俗に「パイプカット」と呼ばれるような輸精管の切断術や、女性では卵管結紮、避妊リングの挿入など、精子や卵子の通り道を遮断したり、受精卵の着床を邪魔したりする方法がとられることが多いようです。それなら、動物の永久避妊も同様の方法では無理なのかしらと、これは誰もが感じることですね。しかし、実際に動物病院で行われている方法は、メスなら卵巣(子宮)摘出術といって、お腹を開き卵巣だけ(もしくは卵巣と子宮の両方)を取り出してしまう手術ですし、オスなら去勢手術と呼ばれる両方の睾丸を取り除いてしまう手術なのです。この違いはいったなぜなのでしょう?動物では人間のような手術をすることが難しいからでしょうか。答えはNO!です。獣医さんは、単に赤ちゃんができないようにするのではなく、それ以上の恩恵を考えて性腺の摘出という方法を選択しているのです。

  コンパニオン・アニマルという言葉は、きっと既にご存知の皆さんも多いことでしょう。日本語にすれば伴侶動物ということですが、人と動物の絆(Human Animal Bond)という考え方が提唱され、単にペットというのではなく、人とともに人生を歩むのだということを表現した言葉です。この文章を読んでおられる方の中には、彼らコンパニオン・アニマル無しに自分の生活を語れないと感じる方も多いのではないでしょうか。彼らの存在によって、生活が潤い、会話が弾み、時には生き甲斐とさえ言えるほどに人との結びつきが強いことも珍しくはありません。しかし、えてして、その結びつきを強く感じておられる人に限って、「家族なのだから」、「自分の身になって考えれば」という理由で、インタクトであることに執着される傾向があるように感じます。果たして、それは動物たちにとって意味のある、幸福なことなのでしょうか。ここでひとつ、コンパニオン・アニマルの性について考えてみましょう。

  彼らコンパニオン・アニマルは、オスのことも、メスのこともあります。そして、いずれはこの子たちの子供がほしいと望む飼主さんもおられることでしょう。そういった場合には当然、繁殖能力を残しておく必要があるわけですから、インタクトでなければなりません。けれども、彼らの生活が時として苦渋に満ちたものになるのだということを忘れてはならないのです。コンパニオン・アニマルと人との関係は、人同士の関係でもなければ、動物同士の関係でもありません。そのいずれでもない特別な関係といえばよいのでしょうか、この世の中でもっとも信頼できる関係と確信している方もおられることでしょう。その彼らに、発情の時期が訪れると、異性が気になり、外へ行きたいという衝動に駆られ、食事をするどころではなく、気もそぞろ。メスの犬であれば出血し、メスの猫であれば夜を徹して求愛の歌を歌わねばなりません。その時期は、ご主人との関係と、自分の内なる本能との板ばさみになり、勝手に外へ出れば叱られる、ご主人を裏切りたくない、けれども外へは出たい、などと我慢を強いられることになるのです。一方、飼主さんからすれば、食欲が落ちて心配したり、生理ショーツをはかせたり、散歩にでも行こうものなら、背中の禿げ上がった見るからに病気を持っていそうなノラちゃんが寄ってきたりと、この時期は心労が絶えません。ついつい、仕方のないことと理解はしていても、動物を叱ってしまって自己嫌悪に陥ったりもしてしまいます。

  コンパニオン・アニマルがニュータードなら、こんな人と動物の関係が危うくなるような危険な時期を過ごす必要はありません。発情は訪れてきませんし、オスであり、メスであることを意識する必要がないのです。常に良好な関係を保つことができます。それに、決して、彼らは繁殖能力がないことを、悲観などしてはいないのです。彼らを見ていれば、彼らのいちばんの幸福が、ご主人に愛されることなのだということは誰にも分かるはずです。仕事が忙しく、かまってやれない時の彼らの寂しそうな目、散歩に行こうとリードを持った瞬間に足元で自分を見つめる嬉しそうな目。発情は彼らにとって憂鬱であり、妊娠・出産・育児へと続く道のりは、体と寿命を消耗し、世代交代を促進してしまいます。決して彼らが望み、生き甲斐とし、幸福を感じるものとは限らないのではないでしょうか。ましてや、われわれが、コンパニオン・アニマルの代替わりを望んでいようはずがありません。

  いま、自分とともに人生を歩んでいる動物たち。かけがえのない動物たち。彼らの寿命が自分の寿命よりはるかに短いということを考える時、いっしょに過ごせる時間は少しでも長い方がと考えるのはごく自然なことでしょう。ニュータードであることは繁殖能力を神様にお返しすることで、さらに幾年かの寿命を授けていただくことなのだと考えることができるのです。

  卵巣・子宮・精巣・前立腺の病気、乳がん、会陰ヘルニアなどなど、ニュータードならならないですむ病気が山のようにあって、ニュータードは明らかにインタクトより寿命が長いのです。でも、ニュータードは肥満になるんじゃないの?と心配される方もいます。発情のストレスがない分、太りやすくなることは確かです。けれども、適切な食事量に調節することで十分にコントロールすることができます。もっと言えば、元から適切な食事量を与えていたのならば、決して太りません。与えすぎていたけれど、やせの大食いで太れなかった動物が、ストレスが減ることで太れるようになるだけのことなのです。ホルモンのバランスがおかしくなってしまわない?と心配する方もおられるかもしれません。これは全くないわけではありませんが、人と比べると極めて少ないものです。たとえば人間の女性が初潮を迎えてから更年期になるまでにはおよそ30−40年という期間があり、その間ずっと女性ホルモンにさらされることになります。閉経期に女性ホルモンレベルが落ちてくると、その変化に体がついてゆかずにいろいろな症状に悩まされることになるのです。一方、動物たちはそこまでの長い期間、性ホルモンにさらされているわけではありませんし、理想的には、性成熟を向かえるまでに中性となってしまえば、ホルモンレベルの変化はほとんどなく、大きな問題はないということになるのはご理解いただけるものと思います。つまり、安全に麻酔がかけられる5−6ヶ月令になれば、なるべく早期にニュータードにしてあげればホルモンの問題を意識する必要はないということなのです。

  ここまで読んでいただいて、どのようにお感じになられましたか?コンパニオン・アニマルがニュータードになることで、人も動物も大きな恩恵を受けることができるのです。そのことで彼らの体には特別な問題が起きることはありません。単に子供を作らせないための手術と思っていた不妊手術が、ほんとうは、とても大きな意味を持つ「中性化のための手術」なのです。インタクトが自然でいちばんいいのだと考えておられた方も、そうでない方も、動物たちのそして自分たちの、真の幸福ということを、いまいちどじっくりと考えてみてはいかがでしょうか?

(文責:よしうち)
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