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2002年3月のコラム
フィラリア予防の話

  今現在、南大阪動物医療センターの建物が建っている場所は、自分の生家であった。牛小屋があり、耕運機のかわりの農耕牛がいて、犬や猫たちは、きちんとした塀もない庭と外を自由に行き来していた。誉められた話ではないのだが、今で言うところの放し飼いそのものである。典型的な昭和初期からの稲作農家で、米だけはタンとある。母親が毎日炊いていた米の量は1升をはるかに超えていたように記憶している。大半は飯時になれば帰ってくる犬や猫たちのためにである。
  その頃の犬たちは何故か5〜8歳になると、醤油のような色のオシッコをして死んでいった。10歳を生きて迎えられた犬は無いように思う。何らかの病気の存在を感じながらも、動物病院などどこにもありはしない。それから20年を経て自分が獣医師になり、あの頃の犬たちは例外なくフィラリアに命を奪われていたにちがいないと確信するのに、さして多くの時間は要さなかった。
  そして、自分が獣医師になってからさらに20年以上が経過し、フィラリアの発生率は飛躍的に減少した。そこには、フィラリア予防薬の普及が大きく貢献している。

  自分が開業した時代は、フィラリア予防の幕開けとでも言うような街の動物病院の草創期であった。フィラリアの予防薬が始めて愛犬家にもたらされた時期と時を同じくする。市販第1号は田辺製薬の「サイポール」であった。黄色い散剤で、クエン酸ジエチルカルバマジンを主成分とし、毎年5月初旬から11月下旬まで、毎日服用せねばならなかった。それでも、フィラリアが予防できるというのは画期的なことであり、大きな福音であった。引き続き錠剤も市販され、フィラリア予防の幕が切って落とされた。
  その頃の予防薬の普及率がどれくらいであったか、正確な統計があるかどうかは定かではないが、年間200日を超える投薬は煩雑であり、せっかく予防を開始したにもかかわらず、継続できない方が相当おられたように思う。
  その後、同じ製剤でビスケットのような感じに食べやすく加工した「フィラリビッツ」という製剤が日本全薬工業から発売され、毎日の内服予防もある程度の拡がりを見せた。

  しかし、内服によるフィラリア予防が本格的に普及したのは、やはりマクロライド系抗生剤の一種で線虫類に著効を示す一群の誘導体が発見されことによる。製薬各社がしのぎを削って商品化にこぎつけ、三共製薬の「ミルベマイシン」、大日本製薬の「カルドメック」、共立商事(現、共立製薬)の「モキシデック」が相次いで市販されることになる。
  月に一度内服するだけで予防が可能になったのだ。これは劇的な進歩であり、「フィラリアは予防するのが当たり前」というのが常識になった。

  その後、回虫や鈎虫の駆虫効果を付加した製剤や、さらにノミの発生に予防効果のある製剤との合剤(三共製薬のシステック)が発売され、フィラリア予防が多様化した。

  毎日の内服予防がフィラリア予防の第1期とすれば、毎月の内服予防は第2期と考えてよいだろう。さらにここに至って、第3期と考えても良い製剤が登場した。昨年に発表された「モキシデックSR注」である。従来の予防との決定的な違いは、注射薬だということだ。製剤的には第2期の製剤そのものだが、マイクロスフィアという技術で注射した部位から徐々に放出され、6か月間の効果がある。
 
  このフィラリアの注射予防について考えてみた。1回の注射で6ヶ月の効果ということだが、残念ながら当地大阪では約7〜8ヶ月間の予防が必要である。したがって年間2回の注射が必要となる。しかし、反対に考えれば、年2回注射すれば1年12ヶ月間すき間なく予防効果があり、全く季節を気にしなくてもかまわない。任意の月に射ち始め6ヶ月毎に追加してゆけばよいのだ。
  飲ませ忘れ、飲ませそこないは絶対にない。獣医任せに注射を受けに行くだけでよいのだから。残念ながら、子犬には使用できない。体重が増加するために効果が不十分になってしまう。2倍以上の増加は製薬会社も保証はしてくれない。

  何はともあれ、予防の選択肢が増えることは良いことだ。月に1度の内服も良し、6ヶ月に1度の注射も良し。自分にあった予防法で確実に予防することこそ大切なのだ。現につい一昨年まで、毎日内服させていただいていたフィラリビッツの根強いファンもおられたのだから。

(文責:よしうち)
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