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2003年1月のコラム
血液型の話

  明けましておめでとうございます。新しい年が始まります。世の動きは、決して明るいものではありませんが、今年も元気にスタートを切りたいと思います。このコラムも26話目、毎月末の更新に辛さを感じることもありますが、そこはそれA型の几帳面さで、どうにかクリアしてゆくつもりです。今年もよろしくお願いいたします。

  ところで、このA型の几帳面さとか、O型の明るさとか、すっかり定着した言い回しになっていますが、実際にはどうなのでしょうか。統計的には、必ずしも血液型と性格には相関がないとも言われていますが、日常の話題としては悪いものではないのかもしれません。

  この血液型とはそもそも何なのでしょうか。ヒトの血液型で最も有名にして重要なものは、ABO式と呼ばれるものです。その次にRh式と呼ばれるものがあります。赤血球にはいくつかの抗原として認識される部分があり、それに対する抗体が存在します。その抗体を誰が持っているのかということが問題になるのです。たとえば、A型赤血球抗原を持つヒトは、必ずB型赤血球抗原に対する抗体を持っています。B型抗原のヒトは抗A抗体を、O型のヒトは抗A抗体と抗B抗体の両方を、AB型のヒトは両方を持たない、という風に抗体の保有の仕方に規則性があります。このような抗体を、規則性正常同種抗体と言います。抗体の存在下では、標的の抗原は抗体に攻撃され、激しい反応を起こすことになります。したがって、輸血可能な組合せというものが決まってくるということなのです。それに対して、たいていのヒトの赤血球にはRh抗原が存在しますが、中にはRh抗原(−)のヒトがいます。そのヒトは自然に抗Rh抗体を持っていたり、Rh抗原(+)の血液を輸血すると抗Rh抗体が作られたりして、Rh抗原(+)の血液を輸血できません。この抗Rh抗体などのことを、不規則性正常同種抗体と呼びます。もちろん、ヒトの赤血球抗原は、ABO、Rhだけではありませんが、抗原性の強さという意味でこの二つが重要なのです。他にも、pq式や、mn式などというのもありますね。ここまで、ご理解いただくと、日々の動物の診療で、血液型の話が出たときの獣医師の説明が分かっていただけると思います。

  次のカルテはと手にとると、ミク、ハナ、サクラのポメ3姉妹のワクチン接種だった。オーナーは15年来の付き合いの小川さん。診察室に招き入れるや、

  「先生、元気ィー! また太ったんちゃう?」

と、いつもの調子で、元気いっぱいタメ口でまくし立てる。少々言葉遣いに難はあるものの、自分に寄せてくれている親愛と尊敬の念は半端ではない。中学生の頃からの熱心な飼い主さんである。「また太ったはきついなー」と反論しながら、ワクチン接種のための身体検査をしようとしたとき、

  「院長ちょっと。」とスタッフ獣医師から声がかかった。

  「HBCですわ。レントゲン読んでもらえますか。」HBCとはHit by car.=交通事故のことである。

  「小川さん、ちょっと待っててくれる?」席をはずす断りを入れると、

  「先生、はよ帰ってきてや!」

  間髪入れずの返答だが、目が笑っている。片手で拝みながら、シャーカステンの前へ行った。読影をし、治療プランの話を終えて診察室へ戻ると、

  「先生早かったやん。交通事故なん?犬?猫?」

と、これまた矢継ぎ早な質問が飛んでくる。答える間もなく、

  「なーなーなー、犬や猫に血液型ってあるのん?」

  交通事故と聞いて、輸血を連想し、血液型は?と、ふと疑問が湧いたのだろう。疑問があればすぐに訊く。遠慮が無いといえば無いのだが、その熱心さや理解力はたいしたもので、彼女のこの真面目さが実は自分は大好きなのである。

  「そら、もちろんあるよ。けど、人間みたいな血液型とは違うねんけど。」

  犬には現在少なくとも12種類の血液型が知られており、国際的に統一された血液型で重要なものとしてはDEA-1・1、DEA-1・2、DEA-7があり、また日本犬種ではDEA-3抗原の出現率が高く、DEA-3をD1抗原と呼ぶDシステムが提唱されたこともある。いずれにしても、犬にヒトの規則性正常同種抗体というようなものは無く、不規則性正常同種抗体のような自然抗体を持ってはいるが非常に弱く、型違いの輸血を実施しても、ほとんど何の症状も示さないと言われている。しかし、DEA-1・1は非常に強い抗原性を持っているため、過去に輸血歴があるような場合には、抗体が産生され、重大な反応を引き起こすことがある。したがって、輸血を考慮するような状況では、少なくとも交差適合性試験を実施せねばならないが、型合わせに関しては、努力目標的な意味合いが強い。実際、国内には12種類すべての血液型を検査できる施設も無く、また血液を供給してくれる機関も無いのである。動物病院は必要に駆られ、血液を確保するための供血犬を病院で飼育せざるを得ない。

  猫は犬と違って、ヒトと似ている。A型、B型、AB型のABシステムが唯一知られている血液型だ。O型はない。抗体の保有はヒトの規則性正常同種抗体とよく似ているが、ヒトのように必ずというものでもなく、A型の猫の30%が抗B抗体を、B型の猫の大半が抗A抗体を持っているとされている。特にB型の猫の持つ抗A抗体は強いため、輸血時には要注意だ。しかし、日本猫のほとんどがA型と言われており、純血種の一部にB型が存在するだけで、未知の血液型の存在する可能性は高い。ヒトと似ているからと言っても、血液を供給してくれる機関が無いのは犬と同じである。やはり、供血猫の飼育を余儀なくされているのだ。

  淡々と説明を続ける間も、小川さんは熱心に聞いてくれる。

  「それやったら、血液型で輸血すると言うより交差試験でするねんよな。」

  どんぴしゃ、的を射ている。そのとおりである。

  「動物病院は大変やねん。」

  「輸血するとなったら、まず採血履歴を繰り、どの子から血液を採るか決めて、交差試験する。」

  「主・副とも凝集が起こらんかったらOKや。要するに混ぜても固まらんかったらええねやね。」

  「採血したあとは、点滴したげて、栄養のつく食べもんあげて、年取ってきたら引退もさしてやらなあかん。2階で余生を過ごしてる犬や猫、仰山おるねんで。供血動物を大事にしてんねんから。」

  小川さんは、今までまったく知らなかった舞台裏の話を聞いて、ある種の感動を覚えたようだった。

  「うちの犬でよかったら献血するけど、みんなチッコイからなー。。。」

  その言葉を聞いて、小川さんのことを本当によい人だと思った。現状では、病院のアニマルスタッフ(供血動物のことをそう呼ぶ)たちには、引退まで当分お勤めしてもらう以外方法はない。過去には商業ベースで血液の売買をビジネス化しようとした会社があったが、うまく行こうはずがない。アメリカには、善意の供血ドナー登録をシステム化して運用している実績がある。小型犬の多い日本では果たしてどうだろうか。さらに猫では、善意の献血を申し出る人がいても、多くの血液を採取するには全身麻酔せざるを得ない。これもまたひとつの難関となる。そんなにまでして献血したくはないと思う人も多いだろう。

  ヒトの献血にさえ事欠いて、海外の血液製剤に頼っているこの日本。仮に動物の登録システムがあったとしても、言わずもがなというところかもしれない。

  「小川さんみたいな人ばっかりやったら、ほんまにええねやけど。」

  そう言いながらポメ3姉妹のワクチン接種証明書を手渡すと、

  「いつもせんせにはおこられてばっかりやのに、そんな誉められたら気持ち悪いわ。」

  ニコニコしながら、いつものように減らず口の返答が帰ってきた。

(文責:よしうち)
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