南大阪動物医療センター

HOME サイトマップ お問い合わせ

バックナンバー

イメージ
診療案内 施設案内 スタッフ紹介 ウェルフェア相談 しつけ方教室
TOP > 今月のコラム > バックナンバー > 2006年7月のコラム
コラムのバックナンバー
2006年7月のコラム
「口腔鼻腔瘻孔」の話

  あわててうどんをかき込んでむせた拍子に鼻からにょろーんなどと、これはどうも冒頭からはしたない(失礼)。しかし、かのうどん君はどのような経路を経て鼻の穴から顔を出したのか、漠然と分かってはいても、きちんと説明できる方は少ないのかもしれない。鼻から入った空気は気管へ、口から入った食べ物は食道へ、のどのあたりを触ってみれば分かることだが、食道は気管の後ろ側にある。鼻・口と食道・気管の関係を真横から見れば、のどの部分で空気と食べ物が交差していることになる。その交差の部分には絶妙の仕掛けがあり、喉頭蓋というフタが閉じ開きし、フタの奥ではひ裂軟骨が開閉して、気管への空気以外の侵入を阻止している。そこへうどんのおつゆだろうかが飛び込みかけたものだから、反射的にシャットアウトをくらい、その勢いで食道に入りかけていたうどん君が鼻の方へUターンとなってしまったのだ。

  この鼻からにょろーんはめったにあることではない。自分の記憶でも小学生以来そんな悲劇を演じた覚えはない。しかし、本来の交差点以外の部分に空気と食べ物が入り混じる場所があったらどうだろう。そこには絶妙の仕掛けも何もない。年がら年中鼻からにょろーんは誰しもゴメンこうむりたいものだ。

  次のカルテはと手に取ると、ミニチュアダックスのロンくん11歳。くしゃみ、鼻水とメモ書きがある。某かぜ薬のカプセル君のキャラクター演じるCMのようなメモ書きに、あのCMは鼻からにょろーんではなく「鼻水だらーん」だったっけなどと要らぬことを考えてしまった。気持ちを切り替え、診察室に入ってもらう。

  「どうされましたか?」と問うと、

  「口の中に穴が開いてましてね、可哀相なんです。」

といきなり直球が来た。

  「拝見しましょう。」そう言ってうつむいているロンくんの顔を両手で支えた。

  目の周りにも良く見ると顔じゅうに白髪が目立ち、いかにも老犬然としたロンくんの鼻孔の周りは鼻汁で少し汚れ、顔全体の形がカモノハシのような印象で、マズルが妙に細長く貧弱なのだ。唇をめくるとその疑問はすぐに解けた。歯がない。裂肉歯を除いてほとんどの歯が抜け落ちている。総入れ歯の人が入れ歯をはずすと梅干を食べたような口になるが、マズルの長いイヌの歯がなくなるとカモノハシのようになるのだと改めて気づく。

  そして、きっと大きな犬歯がその存在を誇示していただろう場所にパチンコ球大ほどもあるだろう大きな穴がぽっかりと開いているのだった。

  「なるほど。よく分かりました。これでは、くしゃみ、鼻水どころではありませんよね。」

  「そうなんです。くしゃみをするとフードのカスやどろっとしたものが飛んできて、なんとか治らないものでしょうか。」

  鼻の穴からフードが出てきてしまう理由はこうなのだ。犬歯の歯根は非常に長い。歯根端は鼻腔のすぐ裏側に位置することになる。その犬歯が歯周病に侵され、歯根端膿瘍ができ、歯槽骨や周囲の組織が化膿や炎症によって融解・吸収され、とうとう口と鼻が疎通してしまう。それでも歯根の大きく長い犬歯はなかなか脱落せず、歯周病は歯根の周りをどんどん解かしていき、動揺が起こり、そして遂に脱落を迎えたときには、口と鼻をつなぐ大きなトンネルが形成されてしまっているということになる。その大きさのゆえに自然にふさがる可能性はほとんどない。これが後天性の口腔鼻腔瘻孔なのだ。(先天的なものには口蓋裂と呼ばれる口蓋の低形成がある。)

  「やってみましょうか。手術ということになりますが。」

  「小さい口鼻瘻なら頬粘膜フラップといって近くの唇の内側の粘膜をコの字に切開して短冊のように形成し、それを穴の上にずらして縫合し閉じるのですが、それだけではロンくんの場合、はじけてしまうでしょう。」

  「口蓋の方からもフラップを形成して、二層のフラップでやってみましょう。」

  「それでもはじけないという保証はありませんが、ほかに方法がありません。」

  「そのあたりをご理解いただいたうえでやらせていただくということになります。」

  何らかの修復法があるのだということでお母さんは勇気付けられたようだった。

  「よろしくお願いします。何とかしてあげてください。」

  一も二もなく手術を希望された。術前検査をし、3日後の手術となった。

  瘻孔をはさんで上下からそれぞれ歯肉のフラップと口蓋のフラップを形成しフラップ同士を瘻孔上で縫合する。さらに頬粘膜からかなり大きく形成したフラップをとり先のフラップに重ね、先のフラップをとった口蓋の断端に丁寧に縫合していく。こうして二層のフラップで瘻孔は閉鎖された。あとは、しっかりと癒合して強固な隔壁になってくれることを祈るだけだ。

  10日後、いつもうつむき加減で引っ込み思案なロンくんが、顔をあげ生き生きした表情でお母さんに連れられて検診にやってきた。食べるたびに食べ物が鼻に入り込み、何度もくしゃみをして入り込んだものを吹き飛ばすつらい生活から開放されたのだ。

  「先生、すごく調子がいいです。」と嬉しそうなお母さん。

  「ちゃんと癒合しているか診てみましょう。」

  そういってロンくんの唇を反転させる。結果は大成功だった。

  「これなら、大丈夫です。」そういってロンくんの頭をなでる。

  「ありがとうございました。」とお母さんの目が潤んでいる。

  お母さんの涙に気づかぬ振りをして、

  「よかったね。」とロンくんに話しかける。

  「(いやー毎日鼻からぐしゃーはつらかったっすよ。どもども。)」

  急に若返ったようなロンくんがしみじみ語ってくれたような気がしたのだった。

(文責:よしうち)
バックナンバーへ戻る→
PAGE TOP
  今月のコラム
バックナンバー

最新情報
今月のコラム
採用案内
しつけ方教室
〒547-0016大阪市平野区長吉長原3-5-7 TEL:06-6708-4111
動物医療機関様へ プライバシーポリシー STAFF ONLY
Copyright(c) 2007 South Osaka Animal Medical Ctr.,Ltd, all rights reserved.