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  みなさま、新年おめでとうございます。本年もこのコラムをよろしくお願い申し上げます。昨年は5回にわたりダイキン工業さんのHPへ執筆したものを、同時にこのページでもご紹介させていただきましたが、その連載も終わり、気持ちも新たにコラムを書かせていただくつもりです。
  また今年の4月には、当ホームページを全面リニューアルの予定にしております。今まではすべて私の手作りでしたが、時代の流れと共にいささか古ぼけた印象のHPになってしまいましたので、思い切ってプロのデザイナーさんに依頼することにしました。どうぞご期待ください。

2007年1月のコラム
「キシリトール」の話

  ところ変われば品変わる。動物種が変われば、それなりに体の仕組みや生理学的な特性が変わるのは当然だろう。「人の体に良いものだからとそれをワンちゃんに与えたらアダになってしまった。」という良い例がキシリトールなのかもしれない。今回はいったい何が違うのだろうかという部分をしっかり考えてみようと思う。

  キシリトールは化学式 C5H12O5 で表され、キシロースから合成される糖アルコールの一種。天然の代用甘味料として知られ、最初はカバノキから発見されギリシア語「Xylon=木」から命名された。キシリトールは唾液中の消化酵素で分解されず、口腔内の細菌による酸の産生がほとんどないことから「非う蝕性甘味料」として知られている。つまり、虫歯になりにくい甘味料ということなのだ。

  現代人の食生活で最も一般的な甘味料はスクロースつまり砂糖なのだが、スクロースは唾液中のスクラーゼによって消化され、口腔内の細菌によって酸を産生し、虫歯の原因となる。よって、キシリトールは歯に有用な甘味料としてもてはやされることになる。

  確かに人の口腔疾患で虫歯は大きな問題なのだが、犬ではどうなのだろう。実際、犬で虫歯を目にすることは極めて少ない。犬の口腔疾患の大半がいわゆる歯周病であり、歯そのものが「う蝕」つまり虫食い状態になっているのを見たことがある人はほとんどいないだろう。

  それでは、いったい犬はなぜ虫歯にならないのか。それは唾液中の消化酵素と関係がありそうなのだ。犬は人とちがい唾液や胃液にアミラーゼや二糖分解酵素(スクラーゼやマルターゼなど)を持たないため、砂糖を食べても、それが口で分解されることはなく、結果的に細菌による酸の産生がほとんどない。虫歯になりにくいのだ。言い換えれば、犬にとって少なくともキシリトールとスクロースは同等に「非う蝕性」だということになる。つまり、わざわざキシリトールを与える必要性はどこにもないということなのだ。

  犬が唾液や胃液中にアミラーゼや二糖分解酵素を持たないことは、血糖降下時の対処にも差として現れる。犬でも近年、糖尿病が増加傾向にある。症状が進めばインシュリンによる治療が必要となる。そのインシュリンの量が多すぎれば血糖値が下がりすぎ、低血糖となり、元気がなくなり、ぐったりとし、さらに下がればケイレンが起きることもある。

  糖尿病の人の場合、シュガースティックを常に携行し、低血糖気味になれば砂糖を食べることで血糖値を引き上げる。こんな芸当ができるのは、唾液や胃液にスクラーゼを持ち、砂糖を食べればすぐにスクロースをブドウ糖と果糖に分解し、血液中のブドウ糖の濃度つまり血糖値に反映することができるからだ。

  それに対して、糖尿病のワンちゃんの場合は、低血糖を起こしても砂糖というわけには行かない。先ほどお話したとおり、唾液にも胃液にもスクラーゼがない。小腸に到達してようやくそこにあるスクラーゼによって分解されるまでの数時間、低血糖を放置するわけには行かないのだ。したがって、ワンちゃんの低血糖はブドウ糖そのものを飲ませる必要がある。

  そのことと進化上関連があるのかないのかは知る由もないのだが、キシリトールの話に戻ろう。キシリトールは人でも犬でも小腸からゆっくり吸収され、その8割が肝臓で代謝されるといわれている。人では血糖値に何の影響も与えず、ごく弱い下剤として働く以外なんら毒性は示されていない。

  ところが、犬では吸収されたキシリトールはすい臓のβ細胞に対し、強力なインシュリン分泌のプロモーターとして作用するといわれており、実際、キシリトール入りガムを大量に食べたリトリバーで低血糖性のケイレンがみられたとの報告がある。その症例は迅速なブドウ糖の点滴によって回復したが、11時間にわたって低血糖傾向が持続したという。犬はキシリトールによって、インシュリンの分泌が強力に促されるということなのだ。

  このインシュリンの作用には
  1)ブドウ糖の細胞内への取り込みを促進する
  2)ブドウ糖からのグリコーゲン合成を促進させる
  3)解糖系を促進しブドウ糖を中性脂肪に変換して脂肪組織に貯蔵する
  4)糖新生を抑制する
  主にこの4つがあげられる。

  結果として血液中のブドウ糖は各組織の細胞内にとりこまれ、肝細胞内にグリコーゲンとして貯蔵され、中性脂肪としても貯蔵され、どんどん少なくなっていくにもかかわらず、新たに合成されることは抑えられるのだ。大量のインシュリンが放出されれば、当然低血糖となる。

  また、少量のキシリトールを毎日与えられれば、低血糖のケイレンを起こすほどではないにしろ、いつも余分なインシュリンが出ている状態、つまりいつも低血糖気味な生活を送ることになる。結果として予測されることは、肝臓に必要以上にグリコーゲンが貯蔵され、肝臓の重量が増え、肝酵素の上昇をきたす、すなわち肝障害が起きるということ。また、中性脂肪の増加による脂肪組織の重量の増加すなわち体脂肪率の増加などだろう。俗にいう低インシュリンダイエットの逆、高インシュリン肥満とでもいうのだろうか。

  結局、犬にとってキシリトールは百害あって一利なし。キシリトール入りの犬用サプリは犬の健康を害する可能性はあってもなんらメリットはないということになる。

  人にとっては、虫歯の原因になる可能性の少ない甘味料であり、スクロースと同程度の甘味を有しカロリーは40%も少ない、しかも小腸でゆっくりと吸収され血糖値にひびかないダイエット甘味料ともいえるキシリトールは良いことずくめのように思われる。最近では骨粗しょう症にも効果ありという報告もあり、さらにその有用性が高まる可能性も出てきている。

  動物種が違えばこうも同じものが善にも悪にもなるものかと空恐ろしい気がするけれど、よーく考えてみれば、人の体に良いといわれる玉ねぎも、犬には中毒を引き起こすのだったと、これは誰もが知っている周知の事実。

  自分の常識は人から見れば非常識なこともある。常識は決して人に押し付けるものではないと肝に銘じ、今年一年、獣医師として人として、さらに良識を磨くよう心がけて行きたいと、年頭にあたり気を引き締めるのだった。

(文責:よしうち)
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