「皮膚のターンオーバー」という言葉を耳にされたことはおありだろうか? 美容や化粧品の研究が限りなく皮膚科の研究に近づきつつある現在、難しい言葉やカタカナがテレビCMに氾濫している。ノンコメドとかセラミドとか、それこそ「あるある百科大事典」ばりに「科学」なのか「科学風ニセ科学」なのか、きちんと情報を取捨選択していく必要性が高まってきている。そこで、今回は皮膚の異常、その中でも角化の異常について考えてみよう。
角化とは角質化とも言い、皮膚の表皮部分での角質の形成を指している。皮膚は表皮、真皮、皮下組織の3層から成り、表皮はさらに5層の細胞から構成され、その最深部で細胞が新生され、変化しながらどんどん表面へ移動して、最表面でケラチンを多く含む角質層として堆積し、最終的にアカとして脱落していく。これがいわゆる皮膚のターンオーバーなのだが、その角質層の形成に異常を引き起こす病気がある。油ぎった悪臭のあるやわらかい皮膚を特徴とするコッカースパニエルに多い一次性脂漏症や、毛の生え際にしっかりと付着した重症のフケと脱毛を特徴とする秋田犬に多い皮脂腺炎などがそれだ。それぞれについて少し解説してみよう。
一次性脂漏症は原発性角化異常疾患とも言われ、上皮の新生数つまり増殖の速度もターンオーバーの速度も極端に速いという異常によって、角化亢進、脂漏、フケ、悪臭を引き起こす。実際、ターンオーバーのサイクルが3日になっているという報告があるくらい凄まじい。そのメカニズムは異常を示す上皮を他の真皮に移植しても正常化しないことから、細胞に原発的な固有の欠陥と考えられ、それに積極的に関与する多くの因子の存在が示されている。マラセチアが存在する場合はまず抗真菌剤の投与や抗真菌シャンプーを使用し、反応がなければイソトレチノインやエトレチノイドを投与する。最近、フィトスフィンゴシンを主成分とするシャンプーと補給剤が日本でも利用可能となっており、角化亢進のコントロールに期待がもたれている。
皮脂腺炎は、慢性で進行性の皮脂腺の炎症のために皮脂腺が破壊され、最終的には皮脂腺をすべて失ってしまうこともある疾患だ。皮脂腺の喪失は皮脂の不足を招き、角質層の健全性を保つことができず、毛の生え際にしっかりと付着した重症のフケと脱毛を引き起こす。残念ながらそのメカニズムは十分には解明されておらず、完治を望むことはできないが、症状を緩和する維持治療法はある。最低でも週に2回、ベビーオイルやホホバオイルなどをオイルマッサージのように皮膚に塗りこみ角質を融解させてからイオウとタールを含むシャンプーで洗い流す。必須脂肪酸の補給剤を通常の2倍以上の量で飲ませる。イソトレチノインやエトレチノイドが有効なこともある。相当な労力を要することにはなるが、これらによって角化異常がコントロールされれば見違えるような被毛を取り戻すことが可能だ。
一次性脂漏症や皮脂腺炎の診断は皮膚のバイオプシーによって行われ、病理組織学的な所見に基づく。ビタミンA反応性皮膚炎や亜鉛反応性皮膚炎、T細胞リンパ腫との鑑別が確実に行われなければならない。
健全な角質層はセラミドが美しく構築され、皮膚を外界の刺激やアレルゲン、細菌から守ってくれている。そう、垢はとても大切な体の一部なのだ。
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