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2007年4月のコラム
「無菌性脂肪織炎」の話

  ミニチュア・ダックスフントが人気犬種になってどのくらいの季節が流れただろうか。今も人気犬種の座を守り続け、病院の入院室をのぞいたら半数がM・ダックスだったなどというのもあながち大げさではなくなってきている。病気は犬種によって特徴や傾向があり、しばしば特異性とか好発性という言葉で語られる。そして、M・ダックスには他の犬種とは異なる際立って特殊な一面があることは間違いない。ワクチンアレルギーの多さ、椎間板ヘルニアの多さ、交配の制限事項、脛骨の形成不全など、あの胴長な愛らしい体型としぐさに潜んでいる問題は少なくないのだ。(「椎間板ヘルニアの話」(July ’03 )「遺伝子の話」(Sep’04 ) 参照

  皮膚にしこりができ、治療を受けているが直らず、さらにその数が増えてきたり、そのしこりが潰れ膿を出すようになったりという、やっかいな病気がある。犬や猫での発生はまれとされていたこの病気、なぜかM・ダックスには多発するようなのだ。膿を培養しても細菌は検出されず、病変部のバイオプシー(生検)をおこない、病理組織学的な検査をしてようやく無菌性結節性脂肪織炎の診断がおりる。

  こんな特異な病気があるのだという認識が獣医師のなかに広まるまでの間に、いったい何人のM・ダックスの飼主さんが、常日頃から信頼を置いていた動物病院の先生の治療に疑問を感じ、不安に思い、転院を繰り返したことだろう。その反対に、いったい何人の獣医師が頭を悩ませ、検査を繰り返し、心を砕きながらも患者さんを失ったことだろう。

  さらに悩ましいことに、不妊手術や去勢手術のあとの術創の治りが悪く、傷口が開いてしまったり、長い時間をかけてようやく傷が治ったと思ったら、別の場所にしこりができ、潰れて膿が出始めるというようなことが、M・ダックスに見られることがある。これも最近では、縫合糸によって免疫反応が誘発された可能性が指摘され、無菌性結節性脂肪織炎なのだろうということになってきている。

  この無菌性結節性脂肪織炎は原因が不明な免疫介在性の皮下脂肪織の疾患と考えられている。単発のしこりであれば外科的に取り除くことで治療も可能だろうが、多発性ともなるとそうは行かない。通常は高用量のステロイドが用いられる。またステロイドの減量のためや、ステロイドでの反応が悪い場合には、アザチオプリンやシクロスポリンなどの免疫抑制剤が用いられるが、いずれにしろ長期的な管理を必要とする場合が多い。

  「まだまだ十分な知見の得られていない正体不明の病気」という域を脱していないこの無菌性結節性脂肪織炎、当分はM・ダックスくんを、そしてその飼主さんを、さらにその主治医の先生を苦しめ悩ませるに違いない。

  M・ダックスの飼主の皆さん、どうか熱心なあなたの主治医の先生を信じてあげてください。心よりお願い申し上げます。

(文責:よしうち)
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