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2007年09月のコラム
「ワクチンアレルギー」の話

  ジレンマという言葉は良くご存知のことだろう。辞書には「(いずれも望ましくない選択肢のうちから一つを選ばなければならない)苦しい選択[状況], ジレンマ; 板ばさみ, 窮地, 難題」とある。色々なシチュエーションで発生するジレンマに直面し、それを乗り越えるには、正しい知識と合理的な選択が必要不可欠だ。

  動物たちの予防医学となれば、感染症に対するワクチネーションが重要な位置を占める。いわゆる混合ワクチンと狂犬病ワクチンということになる。日本では猫に対する狂犬病予防接種は義務付けられていないが、犬では接種と登録が必要だ。
混合ワクチンは任意の接種ということで、ワクチンの選択や接種プログラムは自ずからホームドクターの考え方に委ねられることになる。地域の発生状況や生活環境、さらにはワクチンメーカーのマーケティング戦略と相まっていささか混乱の様相もなくはない。そこで、現在の感染症に対する予防医学という観点で問題を整理しておこうと思う。

  2003年のAAHAのワクチン接種ガイドラインが最も信頼の置ける指標となっている。残念ながら日本には独自のガイドラインを制定する団体も研究機関もないのが現状だ。その冒頭に述べられている文言を紹介しておこう。

  ワクチネーションのゴールは「100%効果があり、100%安全であること」。そして現状は、「常に安全で・予防的で・これでよいというワクチンはない」ということなのだ。
したがって、ワクチンの選択と使用には、「感染症の発生率と重篤度」「効果と安全」「個々の動物の健康・福祉とライフスタイル」のバランスをとることが必要となる。

  どうすべきかの方向性はこれで十分に説明し尽くされているだろう。参考までに(各社ワクチン製剤)に現在日本で利用可能な主だったワクチンを掲載しておく。

  そこで、いま最も問題になっているのがワクチンアレルギーということだ。ワクチンには変性生ワクチンといって病原性を失わせた生きているウイルスを接種するタイプと不活化ワクチンといって病原ウイルスを死滅させたものを接種するタイプの2つがあり、いずれもその抗原刺激によって免疫を作らせる。将来的には遺伝子欠損ワクチン、ベクターワクチン、DNAワクチン、合成ペプチド、組み換えタンパクなどのバイオテクノロジーを駆使したより精製度の高いワクチンに切り替わっていくと予測されるが、現在ではごく一部の実用化にとどまっている。
  これらのワクチンには「抗原(ウイルス)そのもの、アジュバント、抗生物質、ゼラチン、ウシ血清アルブミン、組織培養の細胞壊死片」などが含まれているものが多い。製造の過程で使用され取り除ききれていないもの、効果を出すためや保存性を高めるために必要なものなどだ。アジュバントとは免疫をより強く刺激するための添加物のこと。
  ワクチン接種時に、これらのうちのどれかと動物が反応してアレルギーが起きているものと考えられている。なぜ、アレルギーが起きてしまうのかということについては、これらワクチン側の問題と特定犬種にアレルギーが多いことも含め、様々な議論はあるが、実際にはほとんど全くといってよいくらいに解明されていないのが現状だ。そのアレルギーにもアナフィラキシーと呼ばれる即時型アレルギーと数時間後に顔などが腫れる遅延型アレルギーがあり、いずれも重症であれば治療を要する。

  ワクチンを接種したら動物がぐったりとなった、アナフィラキシーだ。これは、飼主にとっても獣医師にとってもショッキングなことで、当の動物にとって非常につらいことでもある。感染症予防の重要性や必要性は獣医師が切実に感じるものであり、飼主にとっても望むことであるのは議論の余地がない。しかし、ひとたびワクチンアレルギーを経験したらどうだろうか。接種することのデメリット(ワクチンアレルギー)と接種しないことのデメリット(感染の危険性)の板ばさみにあい、おおきなジレンマに悩まされることになる。ならばどうすればよいのだろうか。

  少なくとも現状のワクチンの使用以外に予防の方法がない以上、何とかアレルギーを起こさせずに接種する手段はないものだろうかと試行錯誤するよりない。「ワクチンのメーカーを代えてみる」「9種、8種、7種、5種、4種、2種と多価ワクチンの種類も様々なため、予防の必要な感染症を見直してみる」「抗ヒスタミン薬やステロイドなどで前処置をする」最終的に冒頭の言葉の通り「感染症の発生率と重篤度」「効果と安全」「個々の動物の健康・福祉とライフスタイル」のバランスをとる以外には正解はないことが良く分かる。
  何よりもワクチンアレルギーが起きてしまったら、迅速な対応と処置ができるように、接種後に十分な時間的な余裕を持つことが肝要だ。ワクチン接種後しばらくは動物病院で休憩する。接種はなるべく午前中に受ける。接種後に自分の予定を入れない。接種した日は極力安静にする。などなど。

  将来、ワクチンアレルギーの問題も解決される日が来るだろう。それまでに知っておかなければならないのは、「ワクチンでアレルギーが起きる可能性はゼロではない」という事実なのだ。正確な統計はないが1万5千頭に1頭の確率といわれるワクチンアレルギー。接種後の観察と主治医との良好な連携で乗り越えていくべき問題に違いない。

(文責:よしうち)
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